「疲れを心の中にいれちゃだめよ」
と彼女は言った.
「いつもお母さんが言っていたわ.
疲れは体を支配するかもしれないけれど,
心は自分のものにしておきなさいってね」
「そのとおりだ」
と僕は言った.
「でも本当のことを言うと,
私には心がどういうものなのかがよく分からないの.
それが正確になにを意味し,
どんな風に使えばいいかということがね.
ただ言葉として覚えているだけよ」
「心は使うものじゃないよ」
と僕は言った.
「心というものはただそこにあるものなんだ.
風と同じさ.
君はその動きを感じるだけでいいんだよ」
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