「いや,そうじゃないんだ.
もちろんそういう可能性がでてきたことはとてもありがたい.
でも僕が言うのはそういう意味じゃなくて,
君と話せたのがとても嬉しかったって言うことさ.
君の声が聞けて,
君が今何をしているかというのが分かったことがね」
- 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉/村上 春樹
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「いや,そうじゃないんだ.
もちろんそういう可能性がでてきたことはとてもありがたい.
でも僕が言うのはそういう意味じゃなくて,
君と話せたのがとても嬉しかったって言うことさ.
君の声が聞けて,
君が今何をしているかというのが分かったことがね」
「完全さというものは必ずあらゆる可能性を含んでいるのものなんだ.
そういう意味ではここは街とさえもいえない.
もっと流動的で総体的なものだ.
あらゆる可能性を提示しながら絶えずその形を変え,
そしてその完全性を維持している.
つまりここは決して固定して完結した世界ではないんだ.
動きながら完結している世界なんだ.
だからもし俺が脱出口を望むなら脱出口はあるんだよ.
君には俺の言ってることがわかるかい?」
「よく分かるよ」
と僕は言った.
「僕もその事に昨日気付いたばかりだ.
ここは可能性の世界だってね.
ここには何もかもがあるし,何もかもが無い」
「悪いけど5分だけ休ませてくれ.5分あれば回復する」
「いいさ,気にするな.
俺が走れないのは俺の責任なんだ.
君の好きなだけ休めばいいさ.
なんだかまるで何もかもを君に押しつけているみたいだものな」
「でもこれは僕のためでもあるんだ」
と僕は言った.
「そうだろう?」